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企業経営から見た石油・天然ガス開発事業
(1) 石油・天然ガス開発事業の特性と開発環境
@多種多様な事業のリスク
石油・天然ガス事業は石油・天然ガスの埋蔵量の確保が最重要になりますが、石油・天然ガスの探鉱・開発は以下に述べるように多様な不確実性にさらされたハイリスクな事業です。
(i) 地質的リスク
石油・天然ガスの探鉱・開発事業は深度数千メートルにも及ぶ地下の地層を対象にしており、最新の技術をもってしても、その状況を正確に把握することが困難です。石油・天然ガスの鉱床が存在するのか、存在する場合にその規模や生産効率はどの程度かを判断することは、常に不確実性を伴います。試掘井を掘削しても、成功する確率は極めて低いのが一般的です。従って、大規模な資金を投入して探鉱を行っても、採算のとれる規模の油田・ガス田を発見できるケースは非常に少ないのが実態です。(かっては成功する確率は100本に3本程度といわれ、昨今は技術の向上があるものの、賦存条件が厳しくなっており、100本に10本程度の成功確率)
(ii) 油価・為替の変動リスク
石油・天然ガスの探鉱・開発事業では石油価格や為替の変動の影響も大です。投資を開始してから生産物の販売によって資金回収が始まるまで10年以上の長い期間にわたり、資金を投下するのみで全く収入が得られないケースが珍しくありません。その間に、当初想定していた油価水準が大きく狂うリスクがあります。これは過去の油価の乱高下を見れば明らかです。また、油価がドル建てであるため、わが国の石油・天然ガス開発企業は、為替変動リスクにさらされてきました。特に、事業資金をドル建てで調達することが困難な過去の時期においては、円貨での借入金をドル建ての売上代金を円転して返済しなければならなかったため、多くの企業が、長期にわたり円高が進行してきた中で大きな為替損失を被る結果となりました。近年においては、ドル建てによる開発資金の借入れが普及するとともに、為替予約などの手法も活用することで、為替変動リスクをある程度減らすことができるようになっていますが、決算は円建てであるので、依然として為替変動の影響を大きく受けます。
(iii) カントリーリスク
更に、戦争/地域紛争によって操業そのものができなくなることや、産油国の主権に基づく石油開発政策や為替管理政策の変更等も現実に経験してきました。石油・天然ガスの開発事業はこのようなリスクと常に向き合わざるを得ないのです。
A開発条件の悪化と環境対策の要請
近年、石油・天然ガスの探鉱・開発事業をとりまく条件はだんだん厳しくなっており、所要投資額の増大とともに経済性の確保が難しくなっています。
探鉱が行われる地域は自然条件の過酷な遠隔地や深海等の比重が高まり、より深部の、また、複雑な地層を対象とすることを余儀なくされています。また、産油国側が、港湾、道路等のインフラストラクチャー整備に止まらず、産業の育成、技術移転、教育、医療等の幅広い経済・文化協力を進出企業に求めるところも多くなっており、そのための出費も増大しています。
さらに、地球環境に対する国際的な関心の高まりから、環境に対する配慮が先進国のみならず発展途上国においてもより厳しく求められるようになっています。事業実施に当って環境影響評価が義務付けられることは既に一般的になっていますが、特に海洋での採掘設備の撤去後に生ずる鉱害や海洋汚染、海上災害等を防止するため、「国連海洋法条約」をはじめとして、廃鉱に関する国際的な規制が整備・強化されつつあります。また、原油生産時の随伴ガスを焼却することはかつては広く行われてきましたが、地球温暖化防止や資源の有効利用という観点から規制が強まりつつあり、地中への再圧入等を求められるケースが増えています。このような事情により益々多額の資金が必要となり、プロジェクトの経済性に大きな影響を与えるようになってきています。
(2) わが国石油・天然ガス開発事業の課題
@石油・天然ガス開発におけるわが国の後発性
石油鉱業は、19世紀後半のアメリカから近代的掘削技術とともに世界各地に急速に広まり、20世紀初頭には中東でも油田開発が開始されました。
わが国の海外石油自主開発事業は、1960年のアラビア石油鰍ノよるカフジ油田の発見に始まりますが、わが国の石油開発企業が海外進出を開始した時期には、巨大油田の発見につながるような鉱区獲得は既に難しくなっていました。また、産油国における資源ナショナリズムの高揚によって、権益取得の条件が企業側に格段に厳しくなった時期から事業に参入したこと、さらには1970〜80年代の大幅な為替変動の影響を受けたことも重なり、わが国の石油開発企業は、軍事力、国際政治での発言力等強大な国家権力を背景に長年に亘る事業を通じて巨額の資金や広汎な技術データ等を蓄積して来た欧米先進企業とは異なり、言わば後々発とでも言うべき立場のため十分な企業体力をつけることができませんでした。したがってメジャーズに匹敵するような強力な担い手となるべき、いわゆるナショナル・フラッグ・カンパニーと呼べる企業等は育たなかったのです。
また、第二次大戦後に石油産業が上流と下流とに分断される政策が採られたことも、欧米諸国に比して石油の探鉱・開発部門が相対的に弱いことの一因となっています。
Aわが国企業の課題
石油・天然ガスの自主開発を推進して、安定供給を確保していくためには、わが国の石油開発企業が、欧米国際石油会社や近年とみに活動を活発化しているアジアの国営石油会社に伍して、有望な鉱区権益を獲得し、プロジェクトを推進していくことを可能とする強靭な体質を持つ必要があります。これを具体的に言えば、第一に質量ともに十分な探鉱・開発資金(リスクマネー)を調達することができる能力を持つようになることが挙げられます。第二に、鉱区やプロジェクトの評価を的確に行う技術力、経営判断力が必要不可欠です。特に、オペレーターとしてプロジェクトを遂行していくためには、探鉱精度の向上、探鉱・開発プロセスの効率化、石油・天然ガス回収率の向上、更には国際コンソーシアムの円滑な運営ができる等、総合的な技術力・経営力が要求されます。
さらに第三の課題として、有望な鉱区の権益の獲得や参入を機動的に行うためには、対象鉱区の地質や投資環境に関する正確な情報の迅速な入手と、それらに基づいた的確な経営判断が不可欠です。権益取得については、各企業や業界全体の努力が必要なことは言うまでもありませんが、国および公的機関の情報収集に関する支援、さらには産油・産ガス国との政府間の協力関係の構築に負うところも多く、幅広い分野での国と有機的に連携した事業展開が必要です。
(3) 規制緩和
近年わが国のエネルギー関連事業に関して、特に電力、ガス事業において、規制緩和・自由化が急速に進められつつあります。中でも2004年4月に施行された改正ガス事業法では、小売自由化範囲の一層の拡大等の緩和措置が実施されるとともに、他方、国内に高圧幹線パイプラインを保有する天然ガス開発企業も同法の枠組みの中で「ガス導管事業者」と位置づけられ、託送供給義務を課されることとなりました。これまでガスパイプラインは事業者に対応して、鉱山保安法、電気事業法および高圧ガス保安法の各技術基準による保安規制が課されてきましたが、今次ガス事業制度改革に伴い、新たにガス事業法の技術基準が適用されることとなり、「ガス導管事業者」の運用するガスパイプラインについても、ガス事業法に基づく技術基準への適合性の確認と技術基準の整合化が図られることとなりました。併せて、将来的な国際パイプラインによる天然ガス導入も視野に、長距離、高圧、海底敷設の天然ガスパイプラインの保安規制に係る要求性能、技術基準が新たに示されるところとなり、このなかで、従来欧米の国際パイプラインの技術基準と比較し、その仕様がオーバースペックで高コストの要因と目されていた設計係数や材料、非破壊検査方法等の要素について、新たに欧米並みの新基準を導入することが可能となりました。
一方で、国内の石油・天然ガスの探鉱・開発事業においては、鉱区の取得から最終的には施設の撤去までに関係する法規制は多岐にわたっており、商法をはじめとして、鉱業法、鉱山保安法、海洋汚染・海上災害防止法、消防法、各種規則、条例、通達等が関係しています。これらの法規制をクリアーするためには煩雑な事務手続きを要することが多く、多大な時間と費用を費やしています。特に、発見される油・ガス田規模が小さくなっていく中で、各企業は経費削減に努力しており、規制の緩和が強く求められています。